第34章 呪いの器(三成君)
千代姫「私の気持ちをどうか受け取ってくださいませ。
恋仲が居る殿方と宿に入るなどと、例え具合が悪かろうがお断りするべきでした。
噂を聞いた舞様が憔悴しているとも聞いております」
(そうか、憔悴してると聞いて三成君じゃなくて私のところに来たのね)
面白おかしく適当な噂ほどよく広がるものだと噂好きの世間に呆れかえった。
「姫様は気を失っていたのですから仕方なかったでしょう?
それに私が憔悴しているように見えますか?」
千代姫「……とてもお元気そうだとお見受けいたします」
「でしょう?」
噂から私を守るために三成君が一緒に居る時間も増え、仕事も順調だ。
食欲全開だし、睡眠だって…これに関しては最近寝不足だけど、三成君に愛されて心の栄養は十分だ。
今の私は誰が見ても元気で充実していているように見えるだろう。
千代姫「で、ですがあの時、私の護衛がなんとしても引き留めるべきでした。
護衛の至らなさは私の至らなさでもあります。
舞がお優しい方だからこそ、恋仲の殿方が他所の女と宿に入ったと聞いて胸を痛めないわけがございません」
彼女の高邁(こうまい)さが垣間見え、これ以上断っても無理そうだと簪に目を落とした。
(この人はきっと姫として誇り高く生きるように育てられたんだろうな)
千代姫のお父さんは厳格そうな印象だったから娘にもきっちりと教え説いたんだろう。
(それにしても)
大名の体格は骨太でがっしりとしていて顔つきも強面だったのに、一方の千代姫は優しげな印象でほっそりとしている。
性格はお父様、外見はお母様に似たのかなと想像していると、自然と親しみが湧いてきた。
急に親しげな笑みを浮かべた私を、千代姫が不思議そうに見ている。