第34章 呪いの器(三成君)
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三成君と気持ちを確かめ合って1週間ほどたった頃、大名の姫様が私を訪ねてきた。
名は千代姫といい、噂でもちきりの本人ということもあり最近よく耳にする名前だった。
やはり雨の日に三成君と千代姫が宿に入っていくのを大勢の人が目撃していて、私は三成君に捨てられた可哀想な姫様として噂になっている。
「これを私に……?」
千代姫「ええ。舞様にご不快な思いをさせたお詫びとして贈らせてください」
千代姫は雷雨が去ってもトラウマを刺激されて数日間臥せっていたそうで、まだどこか病み上がりの雰囲気を漂わせている。
お詫びの品として出されたのは漆(うるし)塗りの黒い簪(かんざし)だった。
先端にトンボ玉の飾りがあり、その上部に紫色の真珠がついていた。
(人工的に色をつけたものなのかな。紫色の真珠って珍しいな)
紫の真珠が淡く光を跳ね返し、その色合いは何となく三成君を思いおこさせる。
「こんなに綺麗な品をいただいてもいいのですか?
事情を聞きましたので気にしていませんが」
千代姫「事情をよく知らない人達が私と石田様の噂をしているとか。
舞様の耳にも届いていると思うと大変心苦しくて…人の噂も七十五日と申しますが、まだまだ日数がございます。
私が帰ったあとも不快な思いをさせてしまうでしょうから、どうかこちらをお納めください」
「私と三成君が普段通りに過ごしていれば間違った噂はいつしか消えますから気にしないでください」
私と千代姫の真ん中で、行く手に迷う簪が置かれたままになっている。
(うーん、どうしよう。
遠慮とか謙遜なしで謝罪も贈り物もいらないんだけどな)
もし贈り物をしたいと言うなら千代姫を助けた三成君にするべきじゃないだろうか。
そう思うといくら綺麗な簪とはいえ手を伸ばす気にならない。