第34章 呪いの器(三成君)
家康「三成と姫が宿に入っていくのを舞が見てたんだよ。
浮気じゃないかって取り乱してたから、ちゃんと説明してあげなよ」
三成「舞様があの場所に?」
家康「そう」
三成君は笑みを消して驚いている。
家康はため息を漏らしてまた薬作りに精を出し始めた。他人事は面倒という感じの、いつもの家康だ。
それでもきっと私達が仲たがいしないかと耳を澄ませているんだろうけど。
「ごめんなさい。誤解しないって言ったのに、三成君と姫様が宿に入っていくのを見たら浮気だと思っちゃって」
三成「それは大変なところをお見せしてしまいました。
詳しく説明させていただいてもかまいませんか?」
真摯に言われ、それだけでもう私は安心してしまった。
三成「姫様は幼い頃、近くに落ちた雷のせいで手に麻痺が残っているそうです。
今日は突然雨が降り出し、大きな雷が鳴ったのですっかり取り乱してしまったのです」
「そうだったんだ…」
三成「ええ。どうにか落ち着いてもらおうと思いましたが、遂に気を失ってしまわれたので急ぎ近場の宿に入ったのです。
客観的に見れば誤解されてもおかしくありません」
(うそ、家康の予想通りだった…)
「早とちりしてゴメンね。ほんと恥ずかしい。
家康は三成君が浮気したんじゃないってすぐに気付いたのに、私はまだまだだね…」
三成君はしばし目を瞬かせていたけれど、ふんわりとした笑みを浮かべた。
三成「そんなことありません。舞様は私の1番の理解者だと思っておりますよ」
「そんなことないよ。私と出会う前の三成君を、家康や他の皆は知ってるんだから」
ちょっといじけて言うと、三成君が愛おしげに笑いかけてくる。
眩しすぎて直視できない悩殺的な笑顔だ。
三成「舞様とは仕事をご一緒する時もありますし、私生活はほぼ一緒ですから私以上に私を知っているのではないでしょうか。
例え家康様が舞様が知らない私を知っていても、それは今だけで、これからはあなたが誰よりも知ることになるでしょう」
『誰よりも知ることになるでしょう』そんな嬉しいことを言われ、頬が熱を持った。
「そう、かな…。そうだったら良いな」
三成「必ずそうなります」
言い切った後に三成君はクスっと小さく笑った。