第34章 呪いの器(三成君)
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半刻後。
「ねえ、家康。さっきから手と腕が痒いんだけどどうしてだと思う?」
最初は我慢していたけれど一か所だけでなくあちこち痒くなってきて限界がきた。
弱音を吐くと家康が手にしていたすり鉢を置いた。
家康「ごめん。舞に擦りつぶしてもらってる薬草は肌が弱いと痒みが出るやつだ。
かゆいとこ見せて」
赤くなった指先や手の平を見て、家康は遠慮なく着物の袖を肘までまくり上げた。
赤い湿疹が腕の内側にパラっと広がっている。
家康「結構広がってるね。他には痒い所ない?」
家康は薬箱からかゆみ止めの軟膏を取り出して塗ってくれる。
「そう言われると腕や腕の付け根も痒いかも…」
家康「脱いで。早く塗っておけばすぐに治るから」
「ぬっ!?いや、ちょっと待って?
それはわかるけど、わわわっ」
承諾する前に帯を緩められ、着物の袷が緩んだ。襦袢ごとグイと襟を下げられて心臓が飛び上がる。
(鎖骨と肩がっ…!)
戦国ライフに浸かりきっていたせいか肌を見られるのがやたらと恥ずかしい。
相手が純粋に治療の事しか考えていなかったとしてもだ。
「あの、家康…大丈夫だから」
家康「広い範囲に湿疹が出てる。すぐ終わるから待ってて」
「は、い…」
お医者様モードの家康に不動の姿勢を保つしかなく、黙って処置してもらっていると遠くから走ってくる足音が聞こえた。
聞き覚えのある足音は三成君のもので、まずいと思った時には部屋の前まで来ていた。
(この状況って、それこそ浮気だと思われるんじゃないのっ?)
「い、家康っ」
家康「大丈夫。だけど後でしつこくされるかもね」
「え…?」
家康は焦る様子もなく薬を塗っている。
三成「家康様、失礼いたします」
家康「入って」
襖が開き、一瞬の間があった。
焦る私をよそに三成君の声には安堵が含まれていた。