第34章 呪いの器(三成君)
「家康様、おかわり…ください」
家康「あんたが薬湯をおかわりするなんて珍しいね」
「美味しいです」
優しくしてもらったお礼に素直に感想を伝えたら彼は嬉しそうに仕度を始めた。
冷静になって考えてみると城下の案内役が姫様を宿に連れ込もうとしたら護衛が阻止するはずだよねと、取りこぼしていた疑問が浮き上がってくる。
私に触れる時でさえ人目を気にする彼が、大勢の目がある場所で大胆な行動をとるのはおかしい。二人が盛り上がったという理由では片付かない違和感だ。
つじつまの合わないことがもっとないかと物思いにふける。
ゴリゴリ……
家康様は薬湯のおかわりを淹れた後、乾燥させた薬草を細かくする作業を始めていて、単調な音が部屋に鳴り響いている。
薬草をすり潰す真剣な顔は、はっとするくらい格好良い。
(家康様のおかげで今日は助かった…)
ツンとした態度の裏に時折見えていた優しさ。薄々感じていたけれど今日の事でしみじみとわかった。
三成君のことを邪険にしている割に理解しているし、手を差し伸べる時も強引過ぎず、距離感や間のとり方が上手だった。
信長様や政宗様に揶揄われているのが嘘みたいに大人の対応だった。
(人をよく見てるし、天邪鬼なだけできっとすごくいい人なんだろうな)
じーっと魅入っていたら邪魔をしてしまったようで薬をすり潰す手が止まった。
家康「そういえば3つ目を言ってなかった。
あいつが好んで女に近寄るとしたら舞だけだ」
「私ですか?」
オウム返しで答えると家康様は薬草の具合を見ながら頷いた。
家康「あいつが仕事でもなく救助でもない理由で女に近寄ったのは舞しか居ない」
「まさか……」
家康「まさかじゃない。あいつは女より本が好きで、そんな男が唯一興味を示したのが舞なんだ。
だから自信もっていい。不安に感じて泣くなんて、あんたの涙が勿体ないから絶対やめて」
「あ……うん。ありがとうございます」
強い励ましの言葉に涙が浮かびそうになって慌てて引っ込めた。
ここで泣いたら、せっかくの励ましをだいなしにするようなものだ。