第34章 呪いの器(三成君)
しかし家康様はそれ以外の理由を考えられないと平然としている。
家康「まあ、真実は三成に問いただせば?
あんたが馬鹿みたいに落ち込んでるから言うけど、間違いなく浮気じゃない」
家康様は当の本人に聞けと言いながら自信をもって言い切った。
なんでそんなに三成君を信じられるの?と羨ましく思えるほど確信に満ちた顔をしている。
家康「だからそんなに泣かなくていいよ」
横目でこっちを見た翡翠に気づかいの色が浮かんでいる。
ややもすれば眼のふちに潤みが出ていたのを見ていたみたいだ。
「っ、もう泣いてないです」
家康「そう思ってるのはあんただけでしょ。
いいから浮気じゃないって俺の予想を信じなよ」
「半分信じてみます」
(家康様がこんなに言い切るくらいだから本当に浮気じゃないのかな)
少し前向きになったタイミングで、気分が落ち着くという薬湯を出された。
家康様が勧めてくる薬湯はたいてい美味しくないから、うっと息を止めた。
不味かった時は気合で飲み込めるように少量口に含んで、あれ?と思った。
「美味しい…」
家康「何その顔。美味しくないと思ってたわけ?」
「そ、そんなことありません。家康様の薬湯はいつもいい味してます」
家康「へえ」
いい味っていうのは決して美味しいと言っているわけじゃなくて、つまりは美味しくないんだけど、はっきり言ったわけじゃないのに家康様の目は冷たくすわっていた。
「私の体調に合わせてお茶を出していると三成君が言っていました。
ありがとうございます」
家康「薬湯が必要ないくらい健康体になったら普通のお茶を出してあげる」
「う…不健康ですみません」
再度口に含むと透明感のある苦みがサラッと舌を通り過ぎた。独特の甘みがある芳香が気持ちを鎮めてくれた。
(これウーロン茶みたいな味…)
現代で飲んだことのある味が落ち着く手助けをしてくれて、湯飲みが空になる頃には『三成君から事情を聞いてみよう』と思うようになっていた。