第34章 呪いの器(三成君)
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別にヤケ酒をしようとしたわけじゃなかったのに、気が付けば用意されたお酒を飲み干して、おかわりを頼んでいた。
姫様を抱き上げた時の三成君の真剣な横顔。
それを思い出すと心がざわめいて、お酒をあおって無理やり鎮静をはかった。
身体は温まるを通り過ぎて火照っている。飲み過ぎたと気が付いて手を止めても、また思い出しては盃を傾けた。
家康様は時々お水やお茶を出して世話をしてくれたけど、適度に放っておいてくれるので気が楽だ。
彼は本を開いて文字を追っている。何の本だろうと表紙の題名を見ても、崩し字なのでわからない。
本を夢中で読んでいる姿に三成君が重なった。
紫の目が字を追いかけて上から下に動くのが好きだった。
本を読むときの眼鏡姿は何度見てもときめくし、私の視線に気付いていないからこそ大好きな三成君を心ゆくまで眺めていられた。
もう私達の関係はダメなのかと思ったら胸が締めつけられた。
「………ぐすっ」
こらえきれずに息を吸うタイミングでしゃくりあげてしまった。
家康「っ!?ちょっとなんで急に泣きだしてんの?」
家康様が驚いて本を置き、私はごしごしと手の甲で涙を拭った。
(こんな時、三成君だったら泣いているのに気が付いてくれるかな。
本に夢中で気づかないのかな)
ここに居ない三成君を想像してまた涙がこぼれた。
(どうして三成君はここに居ないの?
なんで私とじゃなく姫様と一緒に居るのよ)
胸がぎゅうと締めつけられて涙がでた。
(私はまだ三成君が好きなのに…)
2人が宿に入っていく光景が頭に何度も再生されて私を苦しめた。
「なんでも、ない…です………」
家康「なんでもなくない。やっぱり何かあったんでしょ」
薬の匂いが沁みこんだ手ぬぐいで涙を拭かれた。柔らかい肌当たりに余計に涙がこみあげてくる。
悲しい気持ちが溢れて、意地っ張りの私もついに心の中にためこんでいたものを吐き出した。