第34章 呪いの器(三成君)
「そっか、教えてくれてありがとう。
針子部屋に居るから大丈夫だと思うけど、もし見かけたとしても事情を知ってるから誤解しないよ。安心してね」
(それに三成君と城下に行けば大変だって知っているし)
三成君は秀吉さんに負けないくらい人気があるから、姫様と城下に行ったところで女の子達に囲まれて長居できないだろう。
人選を誤っていないだろうかとおかしく思いながら、軽い気持ちでOKした。
それがまさか…
急な用事で城下に行き、とっくに城に引き返していると思っていた三成君と千代姫を、あんな形で目撃してしまうとは。
三成君と姫様は真昼間の往来で抱き合ったあと宿に入っていった。しかも三成君は姫様を抱き上げて。
急激に二人が盛り上がったか定かじゃない。
けれど一部始終を見ていた限りはそう見えたのだ。
「三成君が……浮気…」
最近はお互い多忙で逢瀬したのも肌を合わせたのもいつだっただろうと、すぐに思い出せない。
恋仲の私がそんな状態で、大名の姫様は現在進行形で三成君に抱かれていると思うととても惨めだった。
(最近忙しいって会えなかったのは私と一緒に居たくなかったから?)
(今日の予定を確認してきたのは、浮気現場を見られても良いように予防線を引いたの?)
些細なことを掘り返しては恋人としての立ち位置を不安に思った。
「心移りさせるようなことしちゃったかな」
自分がこぼした呟きで、さらに胸が抉られる。
「胸…痛い…」
事実確認をしていないうちに、すでに失恋確定したかのように胸が痛かった。
(明日以降、三成君はどんな顔をして私に会うつもりなんだろう)
私が何も知らないと思って、いつも通りの澄んだ笑顔で話しかけてくるのだろうか。