第34章 呪いの器(三成君)
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三成君からある相談を受けたのは昨日のことだった。
「明日の予定?注文の品を仕上げるから針子部屋にこもっている予定だよ。
なんで?」
恋人の三成君と廊下でばったりと会い、喜んだのも束の間あすの予定をたずねられた。
(最近忙しかったから明日時間をとってくれるのかな?
だったら明日の仕事をなんとかしなきゃ…)
でも三成君の何か気に病んでいる様子に、そういう雰囲気の話じゃなさそうだとすぐに気付いた。
にこにこしていることが多い恋人が表情を曇らせていると、よほどのことが起きたんじゃないかと心配になる。
三成「舞様は先日から安土城に滞在されている大名をご存知ですよね?」
「うん、宴で何度かお会いしたし」
大名の領地内で山崩れがおきたそうで復旧の進捗報告に来ていると聞いた。
江戸時代のように厳しくはないけれど、城を修理する時は上の人の許可が必要で、許可が下りたあとも無駄な増築がされていないかなど抜き打ちのチェックがあるらしい。
そんないちいち面倒な…という感じだけど、城は一個人の家とは違うから仕方ないのだろう。
大名の城は土砂で城壁が崩れてお堀も一部埋まってしまい、大掛かりな修繕を行っているとかなんとか…。
宴でお見掛けしたけれど異国の男性のように大柄で厳格な顔つきをしたおじ様だった。
この時代でよく見かける腹黒タイプではなく真正直な感じでとても信用できそうな人物だった。
三成「あの方の娘にあたる千代姫から『城下を見たいので案内人を紹介して欲しい』と打診がありまして私がその任にあたることになりました。
仕事とはいえ女性と一緒にいるところを舞様にお見せしたくないと思いまして…」
そう言って三成君は気づかわしげな視線を送ってくる。
(仕事なら気にしなくて良いのに)
致し方ない理由だし、こうして前もって言ってくれれば私だって大人げなく文句を言ったりしない。