第20章 心配症
あ、だけど一つ問題があった。
意識を失う直前の記憶…悟が恐ろしいほど低い声を出していたのを思い出す。
「伊地知君のことは怒らないでね、私が大丈夫って言ったんだから」
そう言って悟を不安気に見つめる私、だけど悟はそんな私を冷静に見つめたあと口を開いた。
「お前がそう言ったとしても、あんな血だらけの奴を一人で行かせるなんてどう考えても伊地知の判断ミスだろ」
「でも伊地知君はちゃんと着いて来てくれようとしたの…だけど私が平気だって言って…だから…」
「相手に言われたからって、はいそうですかってなるのがおかしいって言ってんだよ。ガキじゃないんだから少し考えれば分かる事だろ」
ため息を吐き出したあと、そう冷たく言い放つ悟に、私は何も言い返せなくて落ち込んだまま黙りしていると…
「あぁー、もう分かったよ。怒らないよ、これで良い?」
悟は長い脚を組むと呆れたように私を見下ろす。
「その顔反則でしょ、もしかして僕がそれ見たら勝てないの分かっててやってる?」
「……?…何?」
「ううん、何でもないよ。伊地知の事分かった。でもその代わり伊地知には一つやってもらいたいことを思いついたから、これで僕の怒りを収めようかな」
悟は何やらニヤリと笑うと、そのままスマホをいくつか操作したあとポケットへとしまった。
やってもらいたいことって何だろうでも何だかあのニヤリ顔を見ると…きっとろくでもない事に違いない。
怒らないとは約束してくれたけど、きっと伊地知君に無茶な事を言ったに違いないんだろうな。