第9章 さよなら五条先生
田丸はとても苦手だ。持病のことも総務のデータベースにアクセスして全て知ってて、記憶が吹っ飛ぶって周りにバレたら困るんだろって半分脅しにかかってくる。
「ねぇ、ほんとに私達付き合ってた? なんでいつまでもそんな昔のこと言うの」
「俺が付き合ってた女の中では最長だからねー。それに振っただろ俺を。可愛がってやったのに」
腹いせ? 逆恨み? とにかく気分が悪い。どんだけ前のことを根に持ってんの。とにかく顔を見るたび誘ってくる。
この時私はふと思った。この人を少し利用してみてもいいんじゃないかって。
というのも、最近五条先生に、よく兄のことを聞かれていた。名前は? とか、よく喧嘩した? とか。
全くもって記憶がないからそれは内緒って不自然な返しをした。
名前まで隠すなんておかしいし、私がどこか普通じゃないことにそろそろ気付くんじゃないかと恐れていた。