第9章 さよなら五条先生
少し間を空けて、彼がよっこらしょと腰を降ろした。
二人でしばらく川面を眺める。どこからかやってきた鴨が夫婦みたいに寄り添って川下へと泳いで行った。まるで私に一緒に帰ろうと促しているみたいに。
でもこんな状態じゃ帰りにくい。そんな私の胸中を察したのかぽつりと五条先生が呟いた。
「スミレさんとは何もないよ」
「……」
「聞いてる?」
「それを私に説明するのはなんで? 関係ない」
「千愛が不機嫌になったからだけど」
「なってない。お好きにどうぞって言ったじゃん」
「誤解されんの嫌だしね。知ってんでしょ、僕は不用意に手出したりしないって」
それは……知ってる。でも胸のもやもやが取れなくて、つい意地悪な言葉が口をついてしまう。