第9章 さよなら五条先生
後ろから駆け寄る声が聞こえて、それが誰なのかはすぐ分かったけど、振り返れない。
こんな変な顔をした私を見せられない。真っ直ぐ前を向いたまま返事をした。
「びっくりしただけだから気にしないで。お二人でお好きにどうぞ。お邪魔しました」
おいって声を振り切るように風を切って走る。すぐに追いつかれて腕を取られたけど、声を絞り上げた。
「お願いひとりにして。すぐ戻るから……お願い」
掠れた声でそう言うと、先生は力を緩めた。
その隙に腕を振り払って後はただひたすら走った。
素足が冷たい。コートも着ていない。けどこんな気持ちのままあの部屋には帰れない。