The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第3章 8・3抗争
「えー、和泉帰んの?」
「帰る。怪我もしたもんだり、家でゆっくり休もうと思うから」
「んじゃ、玄関まで見送るから」
その優しさが辛い。
だけど三ツ谷先輩が悪いわけじゃないんだよな…そう思いながら平然とした顔を繕う。
「じゃあな、八戒」
「ん、じゃあな〜」
やっぱり八戒は男装をしていれば普通に話せるしカタコトにはならない。
不思議だと思いながら玄関へと向かい、乾燥機にかけてもらった靴をはいてから外に出る。
雨はとっくにやんでいて、地面にはいくつかの水溜まり。
時間帯はまだ夜中なので空は暗いままで、街灯の明かりしかない。
「やっぱり送っていこうか?暗いし」
「大丈夫ですよ。夜道は慣れてますから」
「そっか…」
「お借りした服、また洗濯してから返しますね。今度は早めに返します」
「そんな慌てて返さなくていいからな。んじゃ、気を付けて帰れよ?あとゆっくり休めよ、怪我してるんだから」
「はい。それじゃあお世話になりました」
頭を下げてから三ツ谷先輩に背を向けて歩きだす。
そして三ツ谷先輩の家が見えなくなったぐらいで、ポケットから携帯を取り出せば着信が数回入っていた。
もちろん電話をかけてきているのは修二だ。
(俺が、話をしたくて電話をかけた時はでなかったクセに……)
やっぱりコイツは自分勝手だな…そう小さく笑いながら電話をまたポケットに突っ込む。
今は電話に出てやらないし、折り返しで電話をかけるつもりはない。
「電話したら…俺が落ち着けなくなるからなぁ」
落ち着いてきたら、この怒りと悔しさが少し静まったぐらいで電話をかけよう。
そう思いながら夜中の帳を下ろした街を歩いていく。
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ー2日後ー
怪我のせいなのか…それとも今まで体験した事の無い長い時間の喧嘩のせいなのか。
俺はほとんどこの2日間眠ってしまっていて、病院にも行ってなかったせいで傷が傷んでいた。
当たり前である。
痛み止めも貰ってないし、化膿止めも貰っていない状態なのだから。
「病院、行かなきゃな…。それと龍宮寺先輩のお見舞いにも行かなきゃ」
龍宮寺先輩は昨日意識が戻った。
体調も悪い訳でもなく、死にかけたくせにピンピンとしているらしい。
「あんだけ心配したのにな…はぁ。まぁピンピンしてる方が良いけど」