第5章 ❤︎ 三日間ハメまくった記録 黒尾鉄朗
「今日はまだダメ」
「なんで?」
「デートしたいから。腰が立たなくなったら困るもん。……また、夜にね」
「お預けされんの?」
「そう。だから今はキスだけ」
“来て…”と踵を上げて距離が近付くのをスローモーションのように感じながら唇を重ねる。
「……お前がしたかったんだろ?」
「うん、…正解」
キスん時に背伸びすんのとか可愛いしかねぇしこれで惚れねぇ男いるんだったらこれ以上ハマんない方法を教えて欲しいわ。
「ほい、ドリップ出来たから」
「ん、ありがと…」
カーテンから差し込む朝の光と真っ白いコーヒーカップから漂う湯気と髪のはねたいちかと向かい合わせに座って“いただきます”と手を合わせた。
「そういやお前大学ん時コーヒー飲めたっけ?」
「…社会に出てから好きになった感じかな」
「そうだよな。いっつも紅茶とかジュースのイメージだったから」
「彼氏の影響ってのもあるけど」
「へぇ」
「そう思えばコーヒーを選ぶセンスだけはあったなぁ」
「なんで過去形にしてんの?」
「あ、ほんとだ。まだ付き合ってるのにね、変だよね」
「お前なぁ…」
ほんと嘘がつけない性格というか分かりやすい性格というか…。でも確実に心が揺れてるってことには変わりない。
「ねぇ、今日なんだけど映画観たい」
「何かいいのやってるっけ?」
「分かんない。向こうで決めようよ」
「んじゃそうするか。…食って着替えたら行くぞ」
「うん」
朝食の後はいちかの準備を待ちながら二杯目のコーヒーを飲んでいた。
確かにコーヒーを選ぶセンスはあるのだけは認める。けどそれ以外は認めねぇし精々沖縄で家族孝行しとけ…なんて一人思いながら化粧台でメイクを施す背中を眺めていた。
準備が終わってドアを開けると明るい日差しが眩しい。
「可愛いじゃん」
「ありがとう。やっぱりたまにはお洒落して出かけたいよね」
「なら今日は楽しもうぜ」
いちかの嬉しそうな表情と雲一つない秋晴れにテンションも上がった。