第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
日が傾きかけたころ、気が付けばひぐらしが鳴きはじめていた。
「起きた?」
「うん…、いつの間にか寝ちゃってた」
「喉渇いただろ?スイカ食おうぜ」
「スイカがあるの?」
「そ、朝から井戸で冷やしてたから美味いぞ」
縁側から部屋に入り小脇に抱えたスイカはスーパーで売ってるのよりもずっと小さいもの。
「可愛いスイカだね」
「小さいけど甘いから」
「それも畑の?」
「そう。てきとーに植えててきとーに水やってたら出来た」
「そんなので育つもんなんだね」
「今年は晴れ間が多かったからじゃね?」
そう言いながら手持ちのナイフで少し切れ目をいれるとそこから両方の親指を入れて豪快に真っ二つに…。中からは真っ赤に熟れた実が弾ける。
「凄い」
「はい、半分こ」
「はい…って、このまま食べるの?切らないの?」
「こんくらい食べれるだろ?」
「割り方も豪快なら食べ方も豪快なんだね…」
「これが一番美味いの。食ってみ?」
「うん。…じゃあ、いただきます」
一口かじるとスイカの甘味が口に広がっていく。こんな食べ方したことなんてなかったけど光太郎さんの言うとおり本当に美味しい。大袈裟だけど今まで食べたスイカの中で一番美味しかったかもしれない。
「美味しい…」
「だろ?俺が丹精込めて作ったんだから」
「さっきてきとーに作ったって」
「そ、愛情込めててきとーに水やっただけ」
「何それ。矛盾してない?」
「してねぇよ。水やる時はちゃんと美味くなれよーって念じてたもん」
「念じて?それでこんなに甘くなったの?」
「案外通じるもんなんだよ。ほら、トマトにクラシックかけたら美味くなるとかってあんじゃん。…それでさ俺以外の誰かに美味いって言って貰えたら次はもっと美味しく作ってやろうって思うわけ」
「なるほど、でも一理あるかもね。でも光太郎さんっていつもポジティブだよね。尊敬しちゃう」