第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
「お待たせしました」
涼しげなガラス食器に透明がかった澄んだ色のところてん。日の光にキラキラと光って思わず“綺麗…”と零れる。
「そうか?んなこと思った事もねぇけどな」
「そもそも木兎さんにはそういう繊細な感覚ないでしょ?」
「ねえよ?だって食いもんは美味そうか不味そうって二択しかねぇからな」
「でしょうね。そんなこと改めて言わなくても分かってますから」
「あんみつの寒天とは全然違うんですね」
「こっちはうどんのようにすすって食べるので。黒蜜もかけてあるのでどうぞ」
「はい、じゃさっそくいただきます」
箸でつまむとゼリーのようにつるんとして冷たいのどごしに口の中が潤っていく。優しい黒蜜の甘さがなんとも言えない。
「んめーわ」
味わいながら食べる私を余所に目の前ではまるで飲み物のようにすすっている光太郎さん。あっという間に空っぽになっている。
「おかわり。次は酢醤油な」
「はいはい。そう思ってもう用意してますから」
「さっすがあかーし!」
「わんこそばみたい…」
「ですよね。まぁ美味しいと言って食べてくれるんで作り甲斐はありますけどね」
「でも本当に美味しいです。光太郎さんの食べっぷりも見てて最高」
「いちかちゃんだけ。そう言ってくれるのって」
「あんまり褒めないでくださいね。すぐ調子にのるから」
「京治さんと光太郎さんってずっと仲が良いんですか?」
「だって幼馴染みだし」
「兄弟みたいなもんでしょうね」
「島の人間って限られてるからな。だから嫌でも仲良くなんだよ。お互いここで生計立ててこれからも一緒だろうしな」
「ここまできたらもはや腐れ縁です」
「でもそういうのっていいな。裏表のない関係って羨ましい」
私がそう思うのも無理はない。向こうにいるときはずっと他人への気遣いばかりで息がつまる毎日だったから。空気を読んだところでうまくいかないことばかりで人間関係のストレスで押しつぶされそうだったから。