
第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎

「さんきゅ。……んで?聞かせてよ。ここに来るまでの経緯ってやつ」
「あー……うん…そうだね。彼氏とはね、年上の幼馴染ってやつで高校生の頃から付き合うようになったんだ。私、小さいころから誰か傍にいないとだめな子で所謂メンヘラってやつでさ、すっごく我儘な子だったのね」
「うん…」
「それで鉄朗…あ、鉄朗っていう名前なんだけど。鉄朗は昔から気を許せる人だったし純粋に好きだったんだけど、少しでも離れちゃうと不安になってその都度八つ当たりとかしちゃっててさ。自分でもだめなの分かってて、でもコントロールできなくて」
「そんなに酷かったの?」
「今はもうさすがにないけど、暴れたりしてた事もあったかな…。私だけを見て欲しいって気持ちが強すぎて私っていう人間と他人である鉄朗の境界が分かんなくなっちゃてたの。私の事を好きでいてくれるのになんで分かってくれないの?分かろうとしてくれないの?って理解できなかった」
「……そっか。そんな風に考える事もあんだな」
「私がきっと異常なだけだと思う。でもね、鉄朗が先に社会人になった時、急に不安になったの。こんな私でも受け入れようとしてくれる鉄朗もいつか私の事が嫌いになってもしかしたら捨てられちゃうかもしれないって、それに気付いてからかな。嫌われたくなくて空気読んで自分を押し殺すようになったのは」
「それが別れた原因なの?」
「喧嘩は減ったけど、いつの間にか素直になれなくなって…、鉄朗も仕事で忙しくなって会えないし、その時間を埋めるようにお酒の量が比例して増えちゃって。とうとう眠れなくなって、ご飯も食べれなくなってこのままじゃ私がだめになるってそう思って、それで全部捨てる覚悟で別れてきたの」
「勿体ないな」
「どうして?」
「結局その彼氏とは合わなかったってだけだろ?そんなん全部捨てるなんて考え止めた方がいいぞー」
「だってこれでも何年も付き合ってきたんだよ?そのくらいの気持ちでいなきゃ別れるなんてできないもん」
「その彼氏は捨てて良いけど、それ以外の大事なもんはちゃんととってけって。じゃないと自分の事も大切に出来ないぞ?」
「どういう事?」
「だってさ、今までの時間が全部無駄だったって言い方したら自分が可哀想だろ?いちかちゃんなりにもがいてきた末の結果ならむしろよく頑張ったわ私くらいに思ってやんねぇと、次も同じことになるんじゃね?」
