第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
「怪我してねぇか」
「…星、綺麗」
「星?…ああ、今日は特に綺麗だな」
「この景色見れるだけでも来てよかった」
寝転がったままの私の隣に腰かけてしばらく空を眺めながらふいに呟く。
「それで?なんかあったの?」
「どうして?」
「笑ってるのに泣きそうな顔してたから」
「……そう?」
「こんなとこに女の子一人で来るくらいだからなんかあったんだろうなってことくらいは予想できるから」
「ですよね。…そう、訳ありちゃんなの、私」
自分で言っておきながら情けないけど体を起こして、袋の中の新しいお酒の缶を開ける。
「よくある話だけど、彼氏と別れてここに来たの。別れる別れないでずっと揉めててここ一年くらいはほんと酷い状態で…、このまま彼といたらほんとに駄目になっちゃうかもって思ったから思い切って別れてきたの」
「…なるほどね。あー、でも俺、恋愛相談できないから。話聞くだけな?」
「聞いてくれるの?」
「聞いてやるよ?だからついてきたんだし」
ぐびっとコーラを飲み干して“なんでも言ってよ”と笑った笑顔に少しだけ救われる思いだった。
「そういえば京治さんが持たせてくれたおつまみってなんだろう…」
「開けてみたら?」
「うん…」
袋の中には小さなタッパーと6ピースのチーズ。
「これ、何が入ってんだろ…」
おそるおそる開けてみるとどろっとした茶色い液体のようなもの。
「なにこれ」
「このわた」
「このわた?って何?」
「知らないの?なまこの内臓の塩辛。三大珍味だぞ?」
「なまこ?しかも内臓…?」
「日本酒に合うからじゃね?チーズは分かるけど女の子に持たせるもんじゃねぇよな」
「食べれるのかな?」
「結構うまいけど無理しなくてもいいから。後で俺が食っとくし」
「じゃあ私も…後で頂こう。…でもチーズは食べる」
「俺もちょうだい?」
「うん…、はい」