第72章 結婚するまで帰れません(１)　岩泉一

花「まっつん、俺もそう思った。いちかちゃんはどう？」
「みんなが行くなら参加してもええよ？でも一人でも参加せんって人がおったら行かへんかな」
松「ってことは岩次第だな」
岩「はぁ？」
及「岩ちゃん！！一生のお願いだから参加して。俺といちかちゃんのためにも」
岩「お前、今世で何回目の一生のお願いだよ、それ」
及「今回は本気のお願い」
岩「いつもは本気じゃなかってことか？」
及「そういうんじゃないけど…。でもさ、後々いい思い出になるから絶対」
岩「マジで面倒臭い」

即答を求められて頭を抱えながらため息をつく。見えない机の下で俺の制服の裾を引っ張り、じっと見つめてくる。

岩「こういうのマジで苦手だから。今回だけだぞ」
及「え、ほんと！？」
花「おお、珍しいこともあるもんだな」
「ええの！？」
及「さっすが岩ちゃん！今日だけは感謝するよ！」
「ありがとう！私としてもすごく助かっちゃう。ほんとにありがとう！！撮影日は君たちのスケジュールに合わせるから。後、前向きな返事貰えたしここの会計はおねーさんが持ってあげる」
花「マジっすか？」
「このくらいはね。当日もバイト程度の謝礼は出せるからちょっとしたお小遣い稼ぎだと思って気楽にきてね」
花「すげーオイシイバイトじゃん」
及「俺たちに声かけてもらってむしろラッキーだったんじゃない？」
「じゃあ一人だけ連絡先繋がっていい？撮影終わったら消してもらっていいから」
及「じゃ代表して俺が」
「ありがとう。君はイケメンだからスタッフも喜ぶと思うよ」
及「任せといてください。ちゃんとコンディション整えていきます」
「ありがとう。じゃあまた当日よろしくね」

及川と連絡先を交換した後、颯爽と伝票を受け取ると甘い香水の匂いだけを残して去っていった。隣の及川といちかは嬉しそうに手を振る。周りの空気に押されてOKとは返事したものの面倒なことを抱えてしまったことには変わりない。俺一人、ため息をついていた。