第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
それから暫くの間ゲームに夢中になってるうちに母ちゃんがスーパーの袋を抱えて帰ってくる。
「いちかちゃん、もう大丈夫?」
「はい、だいぶ良くなりました」
「よかった。もうすぐご飯にするけどちょっといい?」
「あ、はい」
「一も聞いてね」
「何?」
「お母さんね、決めたの…」
「何を」
「心配すぎてもう我慢ならない。いちかちゃん、うちで一緒に住みましょう」
「え?」
「はぁ!?」
「だって元々はうちにくる予定だったのよ?それが一の我儘で年頃の女の子を一人暮らしさせてるのよ。何かあってからじゃ遅いのよ」
「そりゃそうだけどよ」
「一といちかちゃんも最近は仲良くなっていい感じだし、私も一緒に住んでくれた方が嬉しいし安心だし」
「すみません、心配かけちゃって」
「いいのよ、女の子なんだし」
「いや、けどよ。仮にも年頃の男女が一つ屋根の下で生活するって普通あり得ないだろ?」
「あんた何昭和な考えしてんのよ。間違いがあったっていいのよ。お互い合意の上なら…」
「はぁ!?おかしいだろ…」
「私も合意の上なら何をされてもいいです、一君なら」
「よくねぇよ!何言ってんだよお前は…」
「一君は私がこの家におったら嫌?」
「お前、そういうのマジで卑怯だからな」
「ほなええやん」
「そうよ、いいのよそれで」
「俺の意見聞いてねぇだろ?」
「だって私は一君といたいもん」
「私だっていちかちゃんにいてほしいもん」
「そういうことじゃ…」
「2対1で決まり。明日も休みだし荷物運んじゃいましょう!一も部活終わったら荷物運ぶの手伝うのよ」
「マジかよ…」
「荷物はあんまりないのですぐに済むと思います」
「そう。じゃあ今日はゆっくりして明日に備えましょう」
「はい」
「ってことで、一君、よろしくね?」
「よろしく…、なんて言えねぇよ、馬鹿」
翌日にはいちかの荷物が俺の隣の空き部屋へと続々と運ばれてきた。そして八月が終わる日、いちかとの同居生活が正式に始まった。