第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
そんな会話にふふっと笑っていちかの表情が緩む。自然な関西弁も普段言わないような我儘もすげぇ可愛く見えた
「一君、優しい」
「んなことねぇよ」
「起きたら一君がいたから夢かなって思った」
「母ちゃんにそばにいてやれって言われたからな」
「そばにいてくれるん?」
「別にやることもねぇから隣でゲームでもするわ」
「それ、わざわざ部屋から持ってきたん?」
「久しぶりにでかい画面でゲームしたくなっただけだから」
「ほんまに?」
「ほんとだよ」
「ほな私もしてええ?」
「薬効いてきてからな。それまでは寝てろ
「え?でももう大丈夫…」
「言っとくけどお前の大丈夫は暫く信用しねぇからな」
「ほんまに大丈夫やのに」
「寝ないんだったら俺部屋行くぞ?」
「それは嫌。…大人しく寝てるからそばにいて」
「最初から素直にそう言えばいいんだよ」
「はぁい」
いちかは不服そうでも俺にとってはこれが精一杯だった。優しくできたかは分からねぇけどこいつのそばにいたいって思いは本音で、喉元まで出てきた言葉を飲み込んだ。
それから1時間くらいで薬が効いてきたのか、布団から抜け出して俺の隣に腰かけてゲームを見始めた。
「次、私にもやらせて?」
「いいけどやったことあんの?」
「うん、向こうでおった時にしたことある」
「あの双子とか?」
「そう。信介もおったけど。私ら兄妹みたいに育ったから何するんでも一緒やってん」
「へぇ…。なら俺と対戦するか?」
「うん!結構やり込んだから強いで?」
「だったら勝負だ」
相変わらず関西の男の名前が出るともやっとはする。けどさっきとは打って変わって声も表情も明るくなったいちかに安堵した。