第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
テレビにゲームソフトを繋ぎ、いちかの寝息が聞こえるくらいに音量を下げてから起動させる。見慣れた馴染みの画面から視線を移すとすぐ隣にはいちかが眠っている。
「お前には振り回されてばっかだな…」
今になってはそれがそんなに嫌じゃねぇから困る。無防備な寝顔だって見てて飽きねぇしこうやって過ごす時間は俺にとっても居心地がいい。好きだって気付いてから何にも考えたくないのにいちかのことばっか浮かぶ。
でもそれはあの時だって同じだった。星賀が好きで、一緒にいるだけですげぇ嬉しくて大切に想ってたはずなのに、別れた後になって何でもっと優しくできなかったんだって後悔した。
二度と恋愛とかしたくない、もうできないって思ってたのに、何で俺はまた浮ついた気持ち抱えてんだろうって情けなくもなる。
「ごめんな…」
まだ“好きだ”っていちかに応えられなくて…。意地張ってんのは俺の方なのにな。全然格好よくなんてねぇよな。
いちかの髪を撫でようと伸ばした手を止める。素直にいちかに触れることが出来たら…、そんな言い訳しかまだ浮かばないんだよ。
「……一君?」
「起きたか?」
「……うん…。今何時位?」
「17時前」
「結構寝ちゃった」
「ゆっくり寝てろ。まだ顔色悪いし」
「うん。………お腹痛い」
「キツそうだな…。そういや薬は?」
「そこに置いてくれてるはず…。すぐ飲むよ」
すぐそばのテーブルにはミネラルウォーターと市販の鎮痛薬が置いてあった。
「これか?」
「うん」
「ゆっくり起きろよ」
「…ありがと」
体を起こしたいちかに水と錠剤を渡す。錠剤を2錠口に含むと水で流し込みこくんと喉を鳴らした。
「大丈夫か?」
「まだ少し頭ぼーっとしてるけど」
「お前、今日無理してただろ?」
「少しだけね。でも朝はほんまに大丈夫やってんで?」
「どうだか…。調子悪い時は無理しなくていいから休めよ?」
「一君の練習、見たかってん」
「いつでも見れんだろが」
「せやけどチャンスは逃したくない」
「今度無理したら出禁にするからな」
「酷い。でも出禁になっても行くもん」
「来んな」
「嫌、行く」