第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
迎えた新学期の朝、夏服姿のいちかと洗面所で鉢合わせる。気不味い俺に構うことなく普段通りに微笑みかける。
「一君、おはよう」
「……はよ」
「私、使い終わったからどうぞ」
「ああ…」
いつもと同じ朝で見慣れた洗面所なのに甘い香りが残っていて一瞬でいちかの匂いだってすぐに気付いた。
「なんだよ。見つめんな…」
「だって格好ええんやもん」
「もうそういうのいいから。言っとくけど学校とか及川にはバレないようにしろよ」
「うん、それは任しといて」
「ったく、また面倒なことが増えたわ」
「まぁまぁそう言わんと。…今日からよろしくね」
「へいへい…」
俺の気も知らないで“よろしく”なんて簡単に言いやがって。好きだと意識してしまった女との同居生活なんて……。俺、どうすりゃいいんだよ……。
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