第68章 ❤︎ 青城3年とルームシェア
暗くなり始めた園内は家族連れがほとんどで駐車場へと向かっている。こんな時間に散策しているのは私たちくらいで外灯が照らす遊歩道を進んでいく。
「マスク外しちゃっていいかな?」
「私たちしかいないもんね。私も外そうっと」
ひんやりとした空気が肌に触れて胸いっぱいに息を吸い込んだ。
「前はマスクなしが当たり前だったのに。今じゃマスクがないと不安なんてね」
「生活もすっかり変わっちゃったしずっと家にいたから季節すら感じてなったけどもう秋なんだね。さすがにこの時間だと肌寒いね」
「そうだね。もっとこっちに寄る?」
「だめ。ソーシャルディスタンス、ちゃんと守って」
「その言葉っていいように使えるよね…」
「だって誰に見られてるか分からないし」
「まぁいいや。こうやって手繋いで歩けるだけ俺は幸せかも」
「大袈裟だなぁ」
「本音だよ」
及川もいつもみたい自己中なお喋りじゃなくて、声のトーンを落として私の話を相槌を打ちながら聞いてくれる。階段の前では“気をつけて”ってエスコートしてくれるし、外灯の下に咲いている花を見つけては立ち止まって教えてくれた。
他の三人にはない甘い空気。というかそういう流れに持ってくのが単に上手いだけなのか…。好きとかそんな感情は一切ないのに錯覚を起こしてしまいそうになるくらいにいい雰囲気だった。