第68章 ❤︎ 青城3年とルームシェア
鞄を取ると二人は慌ただしくさっさと出て行ってしまった。嵐のような時間のあと、静かになったリビングには松川とはまた二人きり。
「俺、空いてる部屋借りていい?」
「あ、うん。私の部屋の隣でよかったらすぐ使えるよ。お客様用の布団も押し入れにあるから使って」
「ありがとう。なら荷物片付けてきていい?」
「いいよ。場所分かるよね?」
「ああ、何回も来てるしな」
「ちょっと埃っぽいから掃除機かけてね。部屋に置いてるから」
「サンキュ。……急にいろいろ押し付けてごめんな?」
「ごめんなんて思ってないくせに」
「でもこんな楽しみ全部奪われた生活なら楽しい事のひとつやふたつあった方がいいだろ?」
「ずっと孤独よりはいいけど、やることが大胆過ぎるから」
「それは分かってる。ごめんな?」
くしゃくしゃっと頭を撫でて私を見つめる視線は優しい。もしまだ付き合ってたらここで抱きしめてくれてキスしてくれてって流れなんだろうけど、もうそういう関係じゃないってのがこの距離感で実感する。
「じゃ荷物片付けてくるから」
「…うん」
今はこれ以上考えちゃうといけないような気がして松川の部屋にはついていかず私はリビングに残った。なんだかどっと疲れて、つきさっきまで見てたドラマを見る気にもなれずさっきまであんなに騒がしかったのが今や名残惜しい。
「私たち、半年も連絡もとってなかったし会ってもなかったのに…」
静かになった部屋でポツリと呟いた言葉がふっと浮かんで消える。
松川のことなんて忘れてたはずなのにちょろいとことは何も変わってないな、私って。