第41章 今世の私も、余す事なくもらってください✳︎不死川さん※微裏有
道の真ん中で足を止め睨み合っていると(睨んでいるのは私だけだが)私たちの横を通り過ぎていく人たちが、なにやら興味ありげな視線をよこしてくる。けれども怒りのスイッチが入ってしまった私はそんなことはどうでもよく
「…あなたのくだらない価値観で私を図るのはやめてもらいたいものですね」
気が付いた時には、自分でも驚いてしまうほどの冷たい口調でそう言っていた。私の態度によっぽど驚いたのか、七光男はきょとんとしている。
「私はですね、あなたのように男の人と遊びたいとは少したりとも思いません。今回も新入社員の親睦会を兼ねた会なので仕方なく参加をしましたが、本来男性がいる飲み会に参加したいとも思いません。あ、もちろんそれは私自身がそうしたいからで、そうするようにと強いられてるだとかいらない誤解はしないで下さいね。私はただ私の婚約者を心から愛しているのだけなので。それではこれ以上お伝えすることはございませんのでこれで失礼します。さようなら」
言いたいことを全部言い尽くし、プイと背を向け歩き出そうとしたが
「っちょっと待てよ!」
ガッと肩を掴まれそれを阻止されてしまう。
「……離してもらってもいいでしょうか?」
自分の出し得る最も冷めた声を出しながら七光男の方に振り返ったその時、もはや嫌悪感すら抱くその顔の向こうに愛おしい顔が映りこんだ。
「っ実弥さぁん!」
目の前にいる生理的に受け付けない男のせいで色褪せつつあった私の世界は、愛してやまない実弥さんの存在を認識した途端鮮やかさを取り戻す。
バビュン
と効果音がつきそうなほどの勢いで実弥さんの元に駆けて行った私に
「…は?」
七光男は私の肩を掴んでいた手をそのままに、その動きを停止していた。
「実弥さん!わざわざ探しに来てくれたんですか?」
「いや…たまたま車で横通り過ぎたんだァ」
「え?本当ですか?全然気が付かなかったです!」
実弥さんのシャツをギュッと掴み、下から見上げるように見つめながら実弥さんとやり取りを交わしていると
「……俺に対する態度と全然違ぇ」
男が不機嫌そうな様子でそんな事を呟いた。