第39章 あなたの声は聴こえてるよ✳︎不死川さん※微裏
「いやぁ~誰が代わりに来るのかと思ってたらまさかあの柏木さんとはねぇ。めちゃラッキー」
そんなことを言いながらこちらに近づいてくる今日の合同任務の相手は、確か私よりも先輩だが階級は同じ…というくらいの情報しか把握していないような人だ。
「……はぁ…そうですか」
何故名前すらも覚えていないか…それは
「任務も早く終わったことだし、この後俺とどっか行かない?」
「忙しいので行きません」
私がそいつの名前を覚えるのが嫌なほど、負の感情を抱いているからだ。
「えぇ~いいじゃん!」
…こいつ…本当に何なの?何のために鬼殺隊にいるわけ…?
女性隊士の中で”顔はいいし強いけど中身最悪”と名高いその男は、女性隊士と合同任務がある度に、こうして声を掛け食い物にしているともっぱら噂だ。利害の一致でそれに応じる隊士も中にはいるが、押しに弱かったり、階級をチラつかされ犠牲になった子も中にはいるという。
私は押しにも弱くなければ、階級もそいつと一緒。だから断ることに何の躊躇もなければ、1分1秒でも早くさよならしたいと思っている。
「それじゃあ今日はありがとうございました」
形ばかりのあいさつを済ませ、背を向けその場を去ろうとしたその時
「ッチ!尻軽女の癖に気取りやがって」
聞こえてきたその言葉に
「…は?なんですって?」
私は思わず足を止めそいつの顔を睨みつけた。
「誰が尻軽ですって?もう一回言ってみなさいよ。…ぶっ飛ばしてやるから」
”尻軽”呼ばわりされ頭に血がのぼった私は、相手にせずさっさと帰ってしまえばいいものを、自ら相手との距離を詰めるように近づいた。けれども
「おっと…怖ぇ怖ぇ。流石、風柱の女だぜ」
「…っ!?」
男の口から発せられたその言葉に、私の体温は急激に下がり、その場で立ち止まってしまう。
「…っ…何それ…でたらめ言わないでよ!」
「でたらめぇ?でたらめって言うなら、何をそんなに動揺する必要があんのぉ?」
立ち止まった私に対し、その男はニヤニヤと腹の立つ笑みを浮かべながら距離を詰めて来る。後ずさったら負けなような気がして、私は近づいてくる男を迎えうつように下から睨み上げた。