第28章 雨降って愛深まる✳︎煉獄さん※裏表現有
結局杏寿郎様は、ほんの少し迷った様子を見せながらも
"なるべく早く戻る。時間があったら甘味屋に行こう!"
そう言って私ではなく甘露寺様を優先し家を出て行った。そうしろと、そうして欲しいと言ったのは私だ。なのに
…こんな醜い物の考え方しか出来ない私は…杏寿郎様のお側にいる資格があるのかな……
嫉妬心で心の中がぐちゃぐちゃに潰れてしまいそうだった。
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このどうしようも薄汚れた心をなんとかしたいと、一心不乱に家中を雑巾掛けしていると。
"ごめんください"
…あ、この声は
玄関の方から良く知った穏やかな声が聞こえてきた。
「はーい!ただいま参ります!」
はしたないかなと思いながらも玄関まで聞こえるように大声で返事をし、タライに雑巾を投げ入れ、掃除の際はいつもつけているエプロンを脱ぎながら玄関の方へと向かった。
「お待たせしてしまい申し訳ありません」
「いいえ!こちらこそ連絡もなしに突然訪ねてしまいすみません」
そう言って杏寿郎様とは違い、下がりがちな眉尻を普段以上に下げているように見えるのは、杏寿郎様の弟様である千寿郎様だ。
「あいにく杏寿郎様は外出中なのですが…なにかご用事でしょうか?」
「特段用があったわけではないんです。ただおつかいで近場まで来たのでもし兄上にお会いできれば…と思っていただけでして。兄上に来ることもお伝えしてなかったんです」
杏寿郎様が不在と知った千寿郎様は、ほんの僅かだが声のトーンを下げながらそう言った。
「…そうですか…」
杏寿郎様も千寿郎様に会いたいとよく口にしている。それでも普段から忙しい杏寿郎様はその時間を作ることも難しいことが多く、千寿郎様に会うことも、ご実家に帰られることもあまりしていない。