第28章 雨降って愛深まる✳︎煉獄さん※裏表現有
台所にたどり着き、後で飲もうと準備してあったお茶を一気に飲み干す。全て飲み干し
ゴトッ
大きな音を立ててシンクにからになった湯呑みを置いた。この場に私の母がいたとしたら"そんな音を立てて湯呑みを置いてはなりません"と怒られていたに違いない。
「……私……なんて…嫌な女なんだろう…」
はじめて甘露寺様にあった時から、私は度々劣等感に苛まれていた。
"…っはじめまして!私、恋柱の甘露寺蜜璃って言います!煉獄さんの元継子で今もとっても良くしてもらってて!すずねさんのことを聞いた時からずっとずっとお会いしたいと思ってたんです!"
"…あ…あの…はじめまして…杏寿郎様の妻のすずねと申します…以後お見知りおきを…"
"…っすずねさんとってもお淑やかで素敵っ!憧れるわ!素敵だわ!"
"こら甘露寺!すずねさんが困っているだろう!そんなに詰め寄らないでやってくれ!"
そう言って杏寿郎様は、私の右手をぎゅっと両手で包んでいる甘露寺様の頭にポンとその大きな手のひらを乗せていた。その姿を間近で目にした時
…私…そんな風にしてもらったこと…ないのに…
杏寿郎様の大切なお元弟子様だとか、杏寿郎様と肩を並べて戦ってくれる強い味方だとか、そんなこと以上に、義務的にしか触れてもらえない自分とは大きな差のあるその対応に心が大きく抉られた。
あの日から、私は甘露寺様が苦手だった。そう思っていることは杏寿郎様にも、もちろん甘露寺様にも悟られないように、いつも通りの自分を装っている。
それでも甘露寺様と会うたびに
"義務的に娶って貰った妻"
と言う自分の存在を思い知らされ、だんだんとカビが広がっていく食べ物のように私の心もカビまみれになっていった。
最初は義務的でもいいからお側にいさせて欲しいと、そう思っていたはずなのに。人間とは、女とは、とても欲深い生き物で、杏寿郎様と共に時間を過ごせば過ごすほどに
愛されたい
そう思うようになっていた。
そして、そうなればなるほどに、私が甘露寺様に抱く劣等感も大きくなっていた。