第28章 雨降って愛深まる✳︎煉獄さん※裏表現有
「…すまない!甘露寺から話を聞いて欲しいと文をもらってな!」
その言葉を耳にした途端、ドロリと黒い感情が一瞬で私の胸を覆い尽くした。
…甘露寺様…。
杏寿郎様の元お弟子様で、杏寿郎様と同じ鬼殺隊の柱で、見目麗しい、鈴のように可愛い声の、あの甘露寺様。
戦えない
待つことしか出来ない
家事炊事しかしできない
たまの夜のお相手しか出来ない
従順だけが取り柄しかない
私とは全く違う女性。
思わず
”甘露寺様の話とは、私との約束よりも大切なものなのですか?”
そんな言葉が口から吐いて出そうになった。けれどもそんなこと、天地がひっくり返ったとしても言えるはずもなく、奥歯をギリッと強く食いしばり、それを耐えた。
「…すずねさん?」
杏寿郎様はサツマイモの煮物へと伸ばしていた手を止め、様子を伺うかのような声色で私の名を呼んだ。
「なんでしょう?」
こんな醜いことを考えている自分の顔を見られたくなく、杏寿郎様に背を向け、つとめていつも通りの声色でそう答えるも
「すまない。やはりあなたとの約束を優先しよう。甘露寺には断りの文を送る」
杏寿郎様は先ほどまでとは異なる私の様子に気が付いてしまったのか、そう言われてしまった。
…だめだな…しっかり態度に出ちゃってるんじゃない
私との約束を優先するというその言葉に、内心喜んでいる自分がいた。けれども
「いいえ。私との約束は大した内容ではないので…是非甘露寺様をご優先ください。任務に関する重要な話かもしれないですし、師である杏寿郎様に聞いて欲しい内容なのでしょうから」
そんな心とは裏腹に、理解のある良き妻で在りたいと思う自分がそれを許せない。
「…だが「すみません。台所を片付けてこなくてはなりませんので失礼します」」
これ以上自分の痴態を晒すわけにはいかないと、私は杏寿郎様の言葉を遮りその場を足早に去った。