第22章 残りの時間、私が貰い受けます✳︎不死川さん
私はぼんやりと飯田さんが居た場所を見つめていた。けれども
「…ひゃっ!」
ぐっと強く腕を引かれ、気が付くと私の身体は不死川様に後ろから抱きしめられていた。
不死川様の突然の行動に、ドクドクドクと信じられない様な音を立て、私の心臓が騒いでいる。
…やばい…心臓が…耳から出てきそう。
現実逃避をしようとしているのか、そんな馬鹿げたことを考えている私に
「…残念な知らせだがよォ…俺はもうお前を連れて行くって決めちまった。今更やっぱり無しは…聞けねェ」
そう言いながら私を抱きしめる力を強めた不死川様に返す私の言葉はたったひとつ。
「…こちらこそ、返品は受け付けません」
こうして私の無謀とも思われる恋心は、ようやく報われる日が来たのだった。
—————————————
「短い間でしたが、お世話になりました」
ひょんなことから転がり込ませてもらった蝶屋敷を、私は今日とうとう出て行く。
不死川様が絶対に迎えに来てくれると自信を持てるようになった私は、アオイさん、きよちゃん、すみちゃん、なほちゃんに療養者が全員ここを出られるまで蝶屋敷に身を置かせて欲しいとお願いをした。けれどもそんな私に返ってきた言葉は、
"不死川様との限られた時間をどうか大切にしてください"
という涙が出てきそうになるほどに嬉しい言葉だった。更には
"不死川様と喧嘩をして家出がしたくなったら、いつでも戻ってきて下さいね"
なんて普段は厳しいアオイさんに優しい言葉を掛けられてしまえば、私の涙腺なんていとも簡単に壊れてしまうのは当然の結果だろう。
「お世話になりました!」
「「「また会いましょうね〜」」」
お互いの姿が見えなくなるまで手を振り続け別れを惜しんだ。けれどもいつまでもその姿が見えるはずもなく、とうとうその姿は見えなくなってしまう。
…やっぱり…少し寂しいな。
不死川様は旅に出ると言っていた。その旅がどんなものになるのか、私はまだ知らない。だから今度いつ、みんなと会えるかはわからない。それはとても寂しい。
…それでも私は…不死川様と一緒に、どんな場所にでも行くんだから。
そんな気持ちを抱きながら、私は不死川様と待ち合わせをしている場所まで急ぎ向かった。