第22章 残りの時間、私が貰い受けます✳︎不死川さん
「…うん。故郷の村に帰ることにしたんだ」
「そうですか。身体は良くなりましたが、きっと体力はかなり落ちてしまっていると思うので、無理せず、ゆっくり帰ってくださいね」
私がそう飯田さんに言うと
「…っあのさ、柏木さん」
私の方に身体の向きを変え、飯田さんがじっと私の目を見つめてきた。私はその眼力に押され、思わず一歩後ずさりをしてしまう。
「な…なんでしょうか?」
「俺、ここで療養している間、たくさん柏木さんと話ができてよかった…毎日…話が出来て楽しかった…!…それで…その…」
段々と勢いを失っていくその様子に、私が首を傾げていると、ふと私の視界の端に、会いたくて会いたくて会いたくて堪らないと思っていたその人の姿が目に飛び込んできた。
「…っ不死川様!!!」
「…え!?ちょっ…!?」
一刻も早く傍に行きたいと思い、驚く飯田さんを放置し、持ちうるすべての力を駆使して不死川様の元へと駆け出す。けれども現役隠時代とは違い、雑用しかこなしていない最近の私の身体では、前のめりになる自分の気持ちに追いつくことが出来ず、足がもつれ、何度も転びそうになった。
不死川様がそんな私に向け、何か叫んでいるのが聞こえたが、とにかく早く不死川様の傍に行きたい私は、その声を無視し、懸命に足を動かし続けた。
はぁ…はぁ…はぁ…
そんなに離れた距離でもなかったのに、とにかく気持ちが急いていた私の息は、不死川様の元にたどり着くころには大きく上がってしまっていた。
そんな私に不死川様は
「馬鹿がァ。そんな急ぐ必要ねぇだろうがァ」
と心底呆れたような声でそう言った。けれども、
はぁ…はぁ…はぁ…
と、中々息が整わない私は、その言葉に反論することもできない。
「…チっ」
そんな私に向け、不死川様は一度舌打ちをするも、膝に手をつき、下を向きながら荒い呼吸を繰り返す私の背中を優しく摩ってくれた。
その不死川様の優しい行動に、胸にフワリと幸せが溢れて来るようだった。
ふぅぅぅぅぅ
大きく息を吐き、呼吸を整えた私は、バッと顔をあげ不死川様の目をじーっと見つめた。
私のその熱視線に耐えられなかったのか、不死川様がフイッと視線を外し
「…なんだァ」
と一言言った。