第22章 残りの時間、私が貰い受けます✳︎不死川さん
「痛みはどうだァ?」
冷却シートを貼り終えた不死川様は、私の目の前でしゃがみ、私のことを下から覗き込むようにしながらそう尋ねて来た。
「はい!不死川様が手当てをして下さったので大丈夫です!」
"大丈夫です"
そう答えた私は、ふと、自分が不死川様からの質問に答えていなかった事に気がつく。
「…っすみません!質問に答えるのを忘れていましたね!…えぇっと…私がきよちゃんに言った"大丈夫"の話で…よかったんですよね?」
私は、不死川様に貼ってもらった冷却シートに手を当てながら、不死川様にそう質問を返す。
「…そうだ。あれのことだァ」
神妙な顔でそう言う不死川様に、"それが、一体なんだって言うんだろう?"と、そう思う部分はあったが、私も不死川様の様子に倣い、神妙とまでは行かないが、真剣にその質問に答えさせてもらう事にした。
「…あれは、私の癖のようなものです」
「…癖だァ?」
「はい。私の母が…私が怪我をしたり、落ち込んでいるときに、いつもあぁして"大丈夫"って言ってくれたんです。不思議ですよね。それだけで本当に大丈夫って…思えたんですもん」
幼い頃の私には、母の"大丈夫"がなによりも効果のある薬だった。
「だから今でも、自分が落ち込んだ時や、あぁして悲しそうにしている人がそばにいる時は、あんな風に自然と母を真似てしまうんです」
目を瞑ると、今でも鮮明に思い出せる、"大丈夫"と言ってくれた母の優しい笑顔。
鬼はもう…いなくなったよ。
安心して、眠れるようになったんだよ。
そんなことを思っていると、2度と会うことが出来ない母のことが恋しくなり、胸が苦しくなった。
私は瞑っていた目をパチリと開け、不死川様の顔を見る。
「…へへっ。久しぶりにその時のことを思い出したら、急に寂しくなっちゃいました!…いい歳した女が、恥ずかしいですねっ!」
そう言いながら、自分の中にある寂しさを誤魔化すように、明るい気持ちになれるようにと無理矢理笑った。すると
「…っ!」
不死川様が、先程冷却シートを貼った私の頬に優しく手を添え
「…無理して笑うなァ」
手つきと同じ優しい声でそう言いながら、私の頬を撫でた。