第21章 おにぎり大合戦【さつまいもvs鮭】
「…っはぁぁぁあ…疲れたぁ…」
座った状態からドテンと縁側に仰向けに倒れる。目を軽くつぶり、今日の稽古の1人反省会を行なっていると、瞼の向こうの赤っぽく見えていた世界が
フッ
と暗くなった。
…日陰になった?
パチリと目を開けると
「…っ…師範…近いです…」
いつもよりも些か近い距離で、私の顔を覗き込む師範の顔が視線の先にはあった。
「そんなことはない」
そう言って、ニコリと微笑む師範の顔は、先程までの稽古で見ていた顔とは異なり、昨日、私に好意を抱いていると言った時と同じ顔をしているような気がした。
ドクドク
と心臓が大きな音を立て始める。
今までは、こんな風にじっと見られても心臓の鼓動が速くなるだとか、頬に熱が集まるだとかそんな身体の変化が起こることはなかった。けれども、今日は違う。
速くなる鼓動。
熱の集まる頬。
昨日のあの出来事で、私は確実に、師範のことを"私の師範"という目以外で見るようになっていた。
そんな私の動揺が伝わっていたのか、師範は
「うむ。俺としては嬉しい変化だ」
と眉を下げ、目を優しく細めながら言った。その表情が、なんだか
"君のことが好きだ"
と、言っているような気がして
「…っ私…お茶!…お茶を入れてきます!」
「っ待て!柏木!」
その言葉を無視し、私はゴロゴロと床を転がり(滑稽な姿ではあるがもうそんなことを考えている余裕は私にない)、師範から距離を取ると、台所へと半ば逃げるようにして向かった。
「…はぁ…」
台所に手をつき、大きなため息をつきながら項垂れる。すると視界に入るのは、ほんの少し水滴が残った洗い場のみ。
逃げないって決めたのに…早速逃げてしまった…。でもでも…不意打ちであんな顔されたら…心臓がもたないよぉ!
フルフルと頭を左右に振り先程の師範の顔を頭から追い出そうとしていると、
「…っ!?」
不意に背中、そして自分の両腕の側に感じた慣れ親しんだ気配に、落ち着きを取り戻すどころか、先程よりも鼓動は早くなり、頬も熱くなる。
気配を絶って近付いて来ていたのか、いつの間にか、私の背後には師範がいた。そして私を囲うように、私の身体の左右にその手をそっと置いた。