第21章 おにぎり大合戦【さつまいもvs鮭】
それでも、たまたま一度だけ見かけた、流行りの団子屋で2人が並んで座っている姿を思い出すと、蜜璃ちゃんのその言葉にも頷けてしまうような気がした。
あの時の伊黒様の顔はきっと、蜜璃ちゃん…好きな人にしか見せない、特別な表情だったんだろうな。
そう思うと、蜜璃ちゃんと伊黒さんの関係が羨ましいような、そんな気がしてくる。
私にも…そんな瞳を向けられるたった1人の相手が…向けてくれる相手が…出来るのかな…?
頭に浮かんできたのは
"いいぞ!やはり柏木は俺の自慢の継子だ!"
と、太陽のような笑顔を見せてくれる師範。
そして、
"きちんと休め。あまり無理をするな"
水面のように静かに私をじっと見る冨岡さん。
…2人のことを、今まで一度もそういう目で見たことはないけど…このまま2人の気持ちから逃げ回るような、不誠実なことはしたくない。だって私は…2人とも"人間"として好きだもん。
「……蜜璃ちゃん…」
「なぁに、すずねちゃん?」
「私…師範とも、冨岡さんともちゃんと話してみるよ」
私のその言葉に、蜜璃ちゃんは瞳をキラキラ輝かせると
「そうね!それが良いわ!すずねちゃんが、どんな答えを出したとしても、私はすずねちゃんの味方だから!」
そう言いながら私の両手をぎゅっとその手で握り締め(些か力が強すぎて手が痛いが)、嬉しそうに微笑んでくれた。
「…ありがとう。また、相談させてね?」
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"どんな顔で師範の稽古を受けたら良いんだろう"
稽古場に着くまで不安でたまらなかったのに、
「柏木踏み込みが甘い!それではせっかくのその威力が剣先まで伝わらない!もっとしっかりと地面を踏みしめろ!」
「…っはい!」
そんな心配は杞憂に終わり、私はいつもの通り、師範の厳しいしごきを受けていた。