第21章 おにぎり大合戦【さつまいもvs鮭】
…これじゃあまるで…師範に閉じ込められてるみたい…
少し動けば、背中も腕も触れてしまいそうな、そんな風に私の身体は師範と洗い場の間に捉えられていた。
「…っ師範…あの…腕…どかして…下さい…」
羞恥で震えてしまう声を抑えながらそう言うも
「断る。どかせば柏木はまた逃げてしまうだろう?」
と私の願い出に対して、否の答えを言い渡されてしまう。
「…だって…っ…」
「だってどうした?」
間髪入れずに答える師範に
わかってるくせに…!
と心の中で呟く。
「…あの…私…お茶…」
「茶はいい。このまま、俺の話を聞いてくれるか?」
そう優しく尋ねられる、コクリとゆっくり一度頷く。
「俺はな柏木。君が、俺を男として見ていなくとも構わないと思っていた。柏木が自分の責務を果たそうと懸命に日々鬼殺にあたり、己を高めようと努力していることを誰よりも側で見てきたからな。それに俺は柱だ。いつ命を落とすかもわからない身で、君に自らの気持ちを伝えるべきではないと、そう思っていた」
語られる、全く想像もしてこなかった師範の私に対するお気持ちに、
きゅぅぅぅ
っと甘やかな痛みを感じる。
「だが今回、冨岡の柏木に対する気持ちを知らされ、柏木を取られてしまうかもしれない…初めてそう思った。そんなことは耐えられない」
フッ
と師範が動いた気配を感じ
「…っ師範…!?」
師範の髪の毛が私の左耳を擽り、肩にほんの少しの重みを感じた。
おでこが…師範のおでこが…私の肩に…
こんな風に"男の人"に触れられるのは初めての経験だった。今まで稽古中に散々、師範に腕を、脚を、腰を触られたことなんてたくさんあった。それを恥ずかしいと思ったことも、ましてやこんな風に胸が高鳴るようにドキドキと音を鳴らすことも一度だってなかったのに。
心臓が…耳から飛び出してきそう…っ!
恥ずかしくて恥ずかしくて、どうかなってしまいそうだった。
それでも確かに
"恥ずかしく"
はあったが、決して
"嫌"
ではなかった。