第21章 おにぎり大合戦【さつまいもvs鮭】
鬼殺隊に入隊することを決めたあの日から、剣技の事、鬼を倒す事ばかり考えて来た私には、恋だとか愛だとか、惚れただとか腫れただとか、考えてくる余裕なんてなかった。けれども、鬼殺隊において数少ない女性隊士ということもあり、好意を向けられたり、所謂愛の告白というものを受けたことがない訳ではない。
滅多に無いながら、それが起こってしまった時の私の行動は一択。
「ごめんなさい!気持ちは嬉しいのですが私は生涯を剣に捧げると決めています!」
そう告げ、
"え!?ちょっと!?"
戸惑う相手を置いて、走り去るのみ。失礼だと思いながらも、あの独特な甘い空気が、私はたまらなく苦手だった。
けれども、今、私の腕を掴み、その私がとてつもなく苦手な甘い空気を作り出しているのは、鬼殺隊、炎柱である師範と、水柱である冨岡さんだ。逃げたくとも、逃げられるはずがない。
それに加えて、私は今の今まで、2人が私に好意を抱いているだなんて、少しも考えたことはなかった。こんな状況になっている今でも、未だに信じられず、あまりにも動揺しすぎて脚に上手く力が入らない。
そうだ。…やっぱり炭治郎君のさっきの言葉は、勘違いで、この甘い空気も私の勘違いで、2人は私のことなんてどうも思ってないかもしれない。そうだ。そうに決まってる!
懸命に現実逃避をしようと、自分にそう言い聞かせている私の視界がふっと暗くなった。なぜ暗くなったのか、理由は簡単だ。
…近いよぉ…っそれに…
私の腕を掴んだまま、背後にいたはずの師範と冨岡さんが正面に周り、
じーっ
と私が2人の影に入ってしまうほどの至近距離で、熱い視線を送ってくるからだ。
…顔から…火が…出ちゃいそう…
「…あの…っ…近すぎ…ます…」
なんとか絞り出した私のその言葉に、
「すまない!」
「すまない」
と再び2人の声が重なった。その事を、互いに不満に思ったのか、2人の視線が私からお互いへと移り、
「冨岡。その手を離してはもらえないだろうか?」
笑っているのに、全然笑って見えない師範の言葉に対し、
「俺は離したくない。そして離す必要もない。煉獄こそ、その手を離してくれ」
冨岡さんは、表情を少しも崩す事なくそう答えた。