第16章 たったひとつの (五条悟)
side 五条
伊地知を連れ回して買い物を終えたあと、るんるんで帰宅したのにが家にいない。合鍵は持ってるから入れないなんてことはないのに。それに僕の方が遅くまで学校にいたと思ったのにな。
の好きな入浴剤とアイス。新しい好みのルームウェア。ボディクリーム。欲しがってたドライヤー。いつも使ってるヘアオイル。
喜ぶ顔が見たくて、一緒にいたくて、ここにいて欲しくて…楽しみにしてたのは僕だけだったの?
誰かと一緒にいるの?
悠仁のことが一瞬頭をよぎるけど、今日は野薔薇の買い物に付き合うって荷物持ちさせられてた。じゃあ誰と…そんなの考えなくたって分かるじゃないか。昔からを目で追ってたのは僕だけじゃなかったんだから。
Prrrrr…
1コール、出ない。
2コール、出ない。
3コール目が鳴り終わる瞬間、電子音が途切れた。電話の向こうは静寂で、こちらを伺ってるようにも思えた。
「やあっと出た!!もしもーし!?ちょっとどこいるの??僕との約束忘れたわけ??」
《ぇ…ちょっと待って…っ》
戸惑うような、息の上がった熱っぽい声。僕はこの声色を知ってる。
「〜?お前が帰ってきてくれるって言うから僕今日学校いったんだけど??」
《さと、る…っ?》
自分で通話ボタン押したんじゃないの?
何に驚いてるの?
「ねえ今どこ?僕もう家着いたよ?」
どこにいるの。僕の傍にいてよ。
《すぐ、いくから…っ待って、て!》
「どーこーにーいーるーの???」
《みんなで勉強してて…っすぐ終わるから…!》
すぐバレる嘘。
「ふぅん。悠仁ならさっき野薔薇の荷物持ちさせられてたけど僕の幻覚だった?」
《ほんとすぐ行くか、ら…っ》
小さく聞こえる会話。
…恵には言い聞かせてたんだけどな。
は僕の、って。
「恵といるんだね?帰ってきたらお話あるから寄り道せずに僕の家来て。分かった?」
《わ、わかった…よ》
「じゃああとでね」
恵とナニしてるの。
思ったよりも低い声が出た。
今日はうんと甘やかすつもりだったのに。別に今日に限ったことじゃないけどさ。僕はいつだってだけしか見てないってどうしたら伝わんの。