第16章 たったひとつの (五条悟)
カチャリ、と控えめに開いた玄関の扉。
「おかえり」
『…ただいま。』
まさか玄関で待ち伏せされてるなんて思わなかったんでしょ。僕を視界に捉えて一瞬目を見開く。
「朝、僕と約束したよね。今夜はここに帰ってくるって。」
『…した。』
「なんで恵の跡べったりつけて帰ってくるかな。」
『たまたま会って…少し部屋に寄らないかって…』
「そんなの着いてったら喰われるに決まってるよね?恵のこと聖人とでも思ってた?昔からお前のこと目で追いかけてたの知ってたろ。」
にだけは懐いた猫みたいに心を許してる恵に気づいてたはずなのに。
『最近は恵くんとこういうことなかったから…油断してた。でも私フリーだし別に…。』
「…は?」
『え』
「え、恵とシたことあんの」
『え、っと…知ってると思ってたんだけど…初めて恵くんとシた次の日明らかに態度おかしかったから…。』
「いや今初めて知ったんだけど。は?」
いや、え。どういう事?
今日が初めてじゃない…?
「いつ。」
『津美紀ちゃんが寝たきりになって少し経ったくらい…かな。』
何それ。聞いてない。だってそれって…
「僕より先に恵に抱かれたの?」
こういうことでしょ
『ぇあ…まあ。そう、だね。』
「意味わかんないんだけど。のはじめては全部僕だと思ってたのに。」
『そんなこと言ったって…でもじゃあなんであんな態度とったの。』
あんなってなんだよ。
恵に抱かれた次の日に僕が変だったって話?…ああでも思い出したかも。明らかにそれまでと違うと感じた日があった。
「毎日毎日恵がべったりなのが気に食わなかったんだよ。お前の言う恵とシた次の日ってのはよく分からないけど心当たりならある。どこもかしこもこれでもかってくらい恵の跡つけてんのを初めて見た日、かな。」
まさかヤってるなんて思わなかったけど。は僕のだって刷り込んでたつもりだったし。
津美紀が寝たきりになって、顔には出さなくとも動揺していた恵のそばに誰よりもいたのはだった。恵に独りじゃないと教え続けたのは紛れもなくだった。
昔からを目で追いかけ続けていた恵。その感情が恋にかわるには十分すぎたんだ。