第16章 たったひとつの (五条悟)
俺の下でまだ余裕そうに笑うの腕が俺の首にかかる。そのまま少しだけ彼女のほうに引き寄せられて距離が近くなった。
『顔あかいね恵くん』
「…うるさい」
『ねえ、恵くんはキスってしたことある?』
「は?…っば、ばか!あるわけねぇだろ!」
『私もないよ』
首にかけられた腕が更に引かれて触れてしまいそうな程近くまで引き寄せられる。あとほんの少し近づけば簡単にキスできてしまうこの状況をこいつは分かっているんだろうか。
「おい、…近い。」
『うん』
「…俺でいいのかよ」
『恵くんこそ私でいいの』
「…男のファーストキスなんて別に価値ないだろ。」
『そんなことないでしょ。』
「は俺でいいのか聞いてんだけど。そっちのが大事だろ。」
俺の初めては全部がいい。
叶うならの初めてが全部俺ならいい。
『いいよ』
「…後悔しても知らねえからな」
優しく、触れるだけのキス。
たった一瞬触れただけなのに身体の熱が上がっていく。柔らかくてあたたかくて気持ちよくて…何度も触れたくなる。
『恵くんの唇柔らかいね』
「もっかい。」
触れるたび深くなるキスに自身が反応していくのがよく分かる。抱き合うだけで熱を持ってしまう身体の中心が…キスなんかしたら止まれなくなる。
「ごめん俺…止まれない、かも」
『うん、いいよ』
初めてのキスも初めての行為も…
この日は俺の強請ったものを全部をくれた。あぁ好きだなって思った。誰かにこんな感情を抱くのは初めてで、でも初めて恋をしたのがで良かったと思ったんだ。