第16章 たったひとつの (五条悟)
津美紀と仲の良かったは俺よりずっと落ち込んでるように見えた。それでも俺を励まそうとそばにいてくれた。
『恵くんには私がいるからね。悟お兄ちゃんもいるから独りじゃないよ。大丈夫だよ。津美紀ちゃんも絶対元気になるから一緒に待ってようね。』
毎日同じベッドで寝ていた。夜になるとが俺の部屋に来て一緒に寝よう、と俺の手を引いてくれたのがどんなに心強かったか。
男は好きと性欲が直結ってのはよく言ったものだ。
中学にあがって周りが恋だの性だのに興味を持ち始めた頃、俺も同じようにに夢中だった。ただそばにいられたらいいって本気でそう思ってた。
…そう思ってたのにそれだけじゃ足りなくなった。
のことがもっと欲しくなった。
『恵くん、寝よ』
いつもみたく手を引かれて同じベッドに潜り込む。俺の頭を撫でてくれる手を捕まえて自分の頬を擦り寄せた。
「…なあ、今日は俺から抱きしめて寝てもいいか?」
『恵くんがそれで落ち着くならいくらでも。』
意識して初めて抱きしめたが思ったよりずっと柔らかくていい匂いがしてクラクラした。
『…なんか当たってる…?』
「ごめん生理現象。」
『…恵くんもこんな風になるんだね。』
「俺の事なんだと思ってんの…」
『ヤンキー』
「おい、心外。」
半身を起こして覆い被さるようにを見下ろす。けらけらと笑いながら だって、と言葉を続ける彼女。
『昨日私にスカートめくりした隣のクラスの男子今日顔腫れてたよ。恵くんでしょ?』
「…あっちが悪いだろ。だいたい中学にもあがってしょうもねえんだよ。」
『声掛けたら伏黒に殺されるから話しかけんなって言われた。怯えてたよ〜笑』
「にしょうもねえちょっかいかけるからだ。俺は悪くねえ」
『ふふ、恵くんは私のナイトだね』
「ヤンキーじゃなかったのか?」
『それもそうだけどでも…恵くんがいるから変な人が寄ってこなくなったから。ありがと。』
俺がそばにいたい。
俺が守りたい。
今までお前がくれたものをこれからは俺が返していきたい。俺の時間も優しさも俺自身も全部…全部あげられるから。
津美紀やお前のような善人が理不尽な不幸に晒されることの無い世界を俺は作りたかった。せめて俺の目が届く範囲では。