第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
前回の合宿からなんだかんだで連絡を取り続けているせいか、約ひと月ぶりに会うのにそんな感じがしない。昨日の夜だって連絡取ってたし、今日の朝だって。
女の人とこんなにずっと連絡をとるのも初めてだった。他愛のないやりとり。“おはよう”から始まる日もあれば“おやすみ”で終わる日もある。offの日は友達とカフェに行くだとか、男同士でも入りやすいカフェを教えてくれたりとか、夏はやっぱ体育館が蒸し暑いだとか、本当に普通のやりとり。
さんと呼んでいたのに、いつの日からかさんと名前で呼ぶようになっていた。それは彼女が壁を感じさせないフラットな性格であるがゆえ。
「あ、そういえばこの前勧めてくれたカフェ行きましたよ。」
『どうだった??』
「コーヒーが凄く美味しかったのでまた行こうかと。雰囲気も落ち着いてて勉強するのに丁度よさそうでした。」
『たしかに落ち着いてるよね!赤葦くんがあのカフェで勉強してるのなんだかすごくイメージできるなあ』
「そうですか?さんはカフェで勉強とかします?」
『うーん。友達とたまにかなー?
またいい所見つけたら共有するねっ』
「はい、お願いします」
他愛のない会話。きっと誰にでもこういう人なんだろう。驚くほど人から好かれやすい人ってたまにいるし彼女はきっとそういう人種。誰とでも対等に接することができて愛想が良くて愛嬌がある。そしてなんと言っても綺麗な人だと思う。顔立ちも心も何もかも。俺はまだ彼女をあまり知らないけどそんな人。
「なあなあ、赤葦とっていつの間に仲良くなったの!」
『この前の合宿で連絡先交換したでしょ?あの日から結構頻繁にメールのやり取りしててね、仲良くなったんだよ〜』
「へー!俺ともメールしよ!」
『もちろんだよ、しようね〜』
木兎さんは何にでも興味津々な子供のような人。
信じ難いが我が梟谷の次期エース。
黒尾さんは相変わらず面白くなさそうな顔をしている。
「俺のゲーム機知らない?」
『え、研磨くんバスの中では持ってたよね?』
「…ないんだよね。」
『うそ、研磨くんの大事なものなのに。探そっか!ごめんね、捜し物するからまた後でね!』
そう言って彼女は乗ってきたマイクロバスへ孤爪たちと走って行ってしまった。