第9章 文化祭
あ。最初のサーブ、侑君なんだ…。
侑君はエンドラインから数歩下がったところで相手コートを見据える。
キャ〜‼︎侑くーん‼︎と声援が飛び交う中、侑君の表情は先程とはうって変わって獲物を捕らえるような目つきに変わっていた。
初めて見るその顔つきに思わずドキッとする。
普段とはまるで別人のよう…。
侑君は左手を高く掲げると、ぐっと拳を握った。
その瞬間、歓声や拍手がぴたりと止まり、体育館の中は一瞬の静寂に包まれた。
凄まじい集中力に会場全体が息を飲む。
侑君の強烈なジャンプサーブは凄い音を立てて相手コートのライン上に決まった。
すると場内は再び歓声が沸き、侑君は「よっしゃ〜‼︎」とガッツポーズを決める。
何これ、、、
凄い…‼︎
カッコ良い…‼︎
サーブの強さはチームの強さと直結する 。
どこかで聞いた事があるけど、正に稲荷崎はそうなんだろう。
瞬きをするのも忘れるくらい、私は試合に釘付けになっていた。
身内同士とはいえ、白熱した試合が続き、なかでも侑君と治君のコンビネーションには場内が沸いた。
さすが双子、と言うべきか2人のセットアップは息がピッタリで、そんな2人の攻撃は相手チームを翻弄していた。
気づくと私は侑君を目で追っていた。
サーブの時はあんなに怖い顔をしていたのに、セットアップが決まると子供みたいに弾けた顔で笑って、かと思ったら相手チームを挑発するような顔を見せたり。
生き生きとしている姿を見てると、本当にバレーボールが好きなんだ、って全身から伝わってきた。
試合は3-2で白チームが逆転し、大盛り上がりの中終了した。
主将の挨拶があり、最後は部員全員が観客に向かってお辞儀をし挨拶をしていたけど、侑君だけは下唇を突き出し不貞腐れた顔をしていた。