❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
半分に割った竹筒の中に中太な長い生地を乗せ、それをへらで一口大にして熱した油の中へ静かに落として行く。綺麗な丸とはいかないが、ころんとした生地が油で揚げられるとこんがりした狐色に染まって来た。香ばしい香りが厨いっぱいに広がり、凪が思わず機嫌よく笑みを浮かべる。
「黒胡麻混ぜてみたのが良かったかも。いい匂い!」
凪が現在作っているのは、一口豆腐ドーナツである。南蛮貿易によってふくらし粉、所謂現代でいうところのベーキングパウダーが入って来た事で、菓子作りもかなりバリエーションが増え、捗るようになった。
豆腐ドーナツは何度か作った事はあるものの、ふくらし粉がなかった事でいまいち食感に欠けた部分があったのである。だが今回はそれを生地に混ぜ込んだ事で、しっとりふわふわ食感になるだろうという算段だ。目論見通り、アクセントとして黒胡麻を生地に軽く練り込んだそれは、見た目にも丸々しており、揚げる前よりも膨らんで美味しそうである。
「これなら噛む回数も少ないし、冷めてもふわふわだろうから、光秀さんも食べてくれるよね」
生地を沢山練った事もあり、小さくへらですくって油に落としてもそこそこ膨らむ事から、かなりの個数が作れる。子供達や光秀の為に用意する他、御殿勤めの家臣達にも分けようと、ころころした豆腐ドーナツを幾つも揚げていったのだった。
それからしばらくの後、油を吸わせる為の紙を敷いた大皿には、大量の豆腐ドーナツが置かれていた。大皿を三枚使い、さながら供物のように山盛りにされた丸いドーナツを見て、凪が達成感に息を零す。一度竈門の火を消して後片付けを簡単に済ませ、最初に揚げたドーナツに甜菜糖をまぶして口に含んだ。
(ん、美味しい!ふわふわ食感だ!)
揚げている割りに油っこくなく、甜菜糖との相性も良い。後からじんわりと胡麻の風味も漂って来て、甘過ぎない事から、彼方にも喜ばれそうな出来栄えである。調理台に置いていたおしぼりで手を拭う。