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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



お絵描きしたものを秀吉に土産として渡すよう光鴇に言ったのは、十中八九光秀で間違いない。混迷極まる様子で首を捻りつつ、幼子がくれたものだからと必死に理解しようとしてくれる優しい秀吉に対し、凪が「やっぱり秀吉さんっていい人だ……」と改めて思ったのは語るべくもない事実である。

「さて、土産も渡した事だ。早めに下城しなければ市が閉まってしまうぞ」
「えっ!!?この状況でおいとまするんですか…!!?」
「公務中に長く留まっては秀吉にも迷惑がかかるだろう?」

一切何もパンダについて説明する事なく、光秀が包みの布などをせっせと片付け始めた。よもやこのままの状態の秀吉を残して立ち去るのか、と凪が問えば、片手で彼女の頬を軽く撫でながら光秀が薄く笑む。普通ならば同意して部屋を辞するところだが、さすがに色んな意味で憚られた。やや胡散臭そうな眼差しを父へ向け、光臣が半眼になる。

「凄くもっともらしい事言ってますけど、絶対潮時だから切り上げる感じですね、父上……」
「まさか。多忙な右腕殿を気遣うのは当然の事だ」
「おい待て光秀、せめてこの生き物についてだけでも説明しろ」
「しろくろのふわふわが、ひでよしだよ!」
「あ、ああ……やっぱりこの転がってるのがそうなのか……?」

何食わぬ顔で帰り支度をする光秀を呼び止めると、光鴇が笑顔で繰り返した。再度改めて絵を見ても、白と黒の丸々した生き物はシュールな感じで地に転がろうとしている。もはや残されたものは謎しかない。

「では秀吉、仕事中に邪魔したな」
「力及ばずすみません、秀吉さん……」
「お、お仕事の邪魔してすみません……」
「ときががんばっておえかきしたの、ひでよしにあげるね!」

妻の腰をそっと抱いて立ち上がった光秀が背を向けて歩き出し、光臣が申し訳無さそうに一礼して父に並んだ。夫に促されながらも振り返った凪が光臣と同じく、心底気遣わしげに声をかける。極めつけに光鴇が無垢な笑顔で手を振り、まるで春先の嵐の如く明智家は立ち去って行った。

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