❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
当然光秀が口にしているひでよしは、パンダ御殿に居たパンダのひでよしである。今目の前に居る秀吉の事ではない。だが、傍から聞けば秀吉が木登りが下手だと思われる上、寝ながら食事を摂る行儀の悪い男と受け取られても仕方のない会話の数々に、光臣と凪がはらはらした心地でそっと顔を見合わせる。ちらりと夫の横顔を窺った凪が、やはりと言わんばかりに目を丸くした。
(み、光秀さんが物凄く悪い顔して笑ってる……!!!)
光鴇は当然純粋にパンダのひでよしの話をしているだけだが、光秀のそれは明らかに意図的である。薄く持ち上がった口角がそれを顕著に表していた。どうにかして助け舟を出そうとするも、果たして未知の動物を秀吉相手にどう説明したものか。困窮した凪が助けをを求めるよう光臣を見た。それを受け、少年が引き締めた表情で頷く。
「秀吉さん、実はその生き物はぱんだという名の……────」
「ひでよしだ」
「うん、ひでよし!あとこれはまさむねで、こっちはいえやす」
光臣が誤解を解こうと説明しかけた瞬間、絶妙な間で光秀が口を挟む。それでは結局ひでよしはひでよしになってしまう。更にまったく悪気のない光鴇が二羽のペンギンを指差し、説明を加えた。黄色い刺々しい眉の、やたら目元がきりりとした生き物が政宗と家康だと説明され、ますます秀吉が混乱を露わにする。
「父上、わざと妙なところで話に割り入って来ないでください……」
「間違った事は何ひとつ言っていないだろう?」
「これが俺で、この妙な眉毛の黒い生き物が政宗と家康……?一体五百年後の世はどうなってるんだ?」
「あのね、いえやすがまさむねのこと、えいってやってたの。それで、ひでよしはころころんってしてたんだよ」
(とてつもなくカオス……!!!)
光臣が些か疲労感を滲ませながら溜息混じりに溢すと、父が可笑しそうにくつくつ喉を鳴らして片眉を持ち上げる。動物園を周っていた時から悪い顔をしていると思ったが、やはり武将達をからかう算段でも考えていたのか。