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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



白い筒状の何かを差し出されるままに秀吉が受け取る。麻紐を解いてもいいか問えば、意気揚々とした返答を得られた為、それをするりと解いた。巻物のように丸まっている白いそれは、これまで秀吉が手にした事のない質感だ。くるくると白い用紙─────即ちスケッチブックの用紙を開くと、そこに描かれているものを目にしてぽかん、とする。

「とき、がんばってひでよしかいた!これ、きのぼりできなくておちたとこだよ」

スケッチブックの用紙には、二泊目の旅館にて光鴇が懸命にお絵描きしていたパンダのひでよしが描かれている。青々とした空の下、柔らかな草が生えているその上へまさに木から真っ逆さまな場面が切り取られたそれは、何度見ても実にシュールであった。そして、当然乱世生まれの秀吉は、パンダを見た事がない。彼の目には自分だと幼子が主張する奇々怪々な生き物が、何故か木から落下しているようにしか見えていなかった。ついでに横にいるやたら黄色い刺々しい眉毛の黒と白の生き物は何なのか。何故片方が片方を攻撃しているのか、秀吉には幼子の言わんとしている事がさっぱりである。

「こ、これが俺か……?あ、あー…そうだな、よく描けてるぞ」
「もふもふってしてふわふわってしてるの、ひでよし、かわいい」
「もふもふ……で、ふわふわ……?」

だが根底が優しすぎる秀吉には、にこにこと笑顔のまま楽しそうに説明してくれる幼子に対し、これは何だと残酷な問いを投げかける事は出来ない。取り敢えず話をなんとか合わせようとして褒めると、とんと更に嬉しそうに跳ねた光鴇が身振り手振りで説明を続ける。もふもふ、もふわふわ、もいずれも乱世には存在しない音の響きだ。戸惑いが過分に窺える秀吉の姿を見て、光秀が可笑しそうに肩を小さく揺らした。

「まさかひでよしがああも木登りが下手だとは思わなかったな」
「うん、ひでよし、きのぼりしてたらどんっておちたの。でもころんってしながらごはん、たべてた。わるいこ!」

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