❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
兄がすかさず窘めると、弟が如何にも不服と言わんばかりに眉根を寄せる。頬をむっすり膨らませながら今度は桃色の金平糖をかりっと食べた。女子供のみならず、基本的に人に甘い世話焼きの秀吉は、それこそ赤子の頃から知っている二人の兄弟にも例外なく滅法甘い。兄弟が自らを挟んで言い合いする姿を見て宥めた後、片手で弟の頭をよしよしと撫でた。途端、光鴇のご機嫌も一気に回復する。
そんな訳で中途半端であった土産の開封を再開させた秀吉が、丁寧な所作で包み紙を外して露わになった箱を畳の上へ置く。上品そうな和柄の箱は緑色で、底部分が深めの茶色だ。玉手箱式のそれをそっと開けると、中には幅広な深めの円柱型の缶が収まっている。乱世では見た事のない容れ物に、秀吉が珍しそうな表情を浮かべた。
「変わった容れ物だな。中には何が入ってるんだ?」
「実はそれ、お抹茶なんです。秀吉さんも茶の湯が好きでしょ?だからせっかくなら五百年後のお抹茶も味わってもらおうかなって」
「皆で試飲させてもらいましたが、すごく上品な濃茶でしたよ」
京都と言えば宇治、という事で秀吉には宇治の超高級抹茶を土産に選んだ。ちなみに全国茶品評会で賞を取る程に有名な一品らしく、試飲させてもらったところ、超高級品と呼ぶに相応しい実に味わい深い抹茶であった。
「五百年後の茶か。利休殿も興味を示されそうな一品だな。ありがとう、大切に使わせてもらう」
「ああ、利休殿へは別の銘柄の茶を土産として用意している。飲み比べてみるのも悪くないだろう」
「ひでよし、まっちゃのむの?とき、にがいからちちうえにおこさまはだめっていじわる、いわれた」
「駄目とは言っていないが」
「鴇は話を時々他意無く盛るので……」
嬉しそうに茶の缶を手にした秀吉に対し、光鴇がむっとぶすくれた表情で文句を言う。さらりと言ってもいない事を盛って話す辺り、将来が若干心配になる凪であった。光秀が思わず突っ込む傍らで光臣が眉尻を下げつつ苦笑する。