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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 掌中の珠 後編



そんな訳で安土城内で土産を渡す相手は残すところ、あとは秀吉だけとなった。秀吉の執務室へと繋がる障子の前に立ち、光秀が早速声をかける。

「秀吉、入るぞ」

相手の許可を得る前にさっさと開かれた障子の向こうでは、秀吉が大量の書簡や文の山に埋もれた状態で文机前にかじりついていた。振り返った男が、いつもながら入室の許可なく勝手に立ち入ろうとする光秀を見て眦(まなじり)を吊り上げる。

「おい光秀、いつも言ってる事だが勝手に部屋を開けるんじゃねえ」
「許可なら取ったが」
「お前の場合は大概が自己完結だ」

光秀にとっては今更な事だが、毎度注意を促して来る秀吉も中々の執念である。しれっと言ってのける男へ軽く噛みつく秀吉の様を見て苦笑し、凪が光秀の背後からひょこりと顔を覗かせた。

「こんにちは、秀吉さん。お邪魔します」
「ひでよし!とき、あそびにきた!」
「お仕事中にすみません、秀吉さん」

凪の後から更に光鴇、光臣も顔を見せると、彼女や子供達の姿を目にして秀吉が面持ちを一変させ、柔らかく綻ばせる。あくまでもお小言を言うのは光秀にだけだ。

「凪、光臣に光鴇、旅行は楽しかったか?」
「はい、とても楽しかったです!見た事のないものがたくさんで、とても良い経験になりました」
「とき、おさらがぐるぐるってまわるところでゆうげ、たべた!つぶつぶ、おいしかった!」

秀吉の部屋へと立ち入り、後ろ手に障子を閉ざす。文机前から立ち上がった部屋主が、来客へ応対する為に開けた場所へ座り直す。車座になる形で腰を下ろした後、光臣と光鴇がそれぞれ旅行の感想を述べる。光臣はともかく、光鴇の感想にはさしもの秀吉も不可解そうな表情であった。

「秀吉さん、光秀さんの非番の為に色々お手伝いしてくれて、ありがとうございました」
「それについては俺からも礼を言わせてもらおう」
「わざわざ礼を言われるような事じゃない。それに、俺が賛成したのはこいつの為じゃないからな。凪や子供達が楽しく過ごせたなら良かった」

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